身近な気象現象である落雷。停電の原因になるだけでなく、「雷サージ」と呼ばれる現象によって、パソコンや電子機器などの損傷を招く恐れがあるため注意が必要です。
では、落雷による被害を防ぐには、どのような対策を行えば良いのでしょうか。今回は、雷サージの概要や被害を抑える対策方法をご紹介します。落雷の増える季節に備え、ぜひ参考にしてみてはいかがでしょうか。
1 雷が発生する仕組み
雷は、電気を帯びた積乱雲(雷雲)によって引き起こされます。
雷雲の中に浮かんでいる氷の塊が擦れ合うと、静電気が発生します。
雲の内部では、+の電荷(正電荷)を帯びた氷の塊は上側に、-の電荷(負電荷)を帯びた氷の塊は下側に集まり、地上には正電荷がたまります。
この時、雲と地上の間で電荷が移動するのが「落雷」です。
雲から飛び出た負電荷は地上に向けて移動し、地上に負電荷が到達すると、同じ経路で地上の正電荷が上空へ移動します。
空気は絶縁体(電気を通しにくい性質を持つもの)ですが、雷は非常に電圧が高く、空気の絶縁性が失われてしまうため、落雷が起こります。
2 雷サージとは
雷サージ(かみなりサージ・らいサージ)とは、落雷時に発生する瞬間的な過電圧(異常高電圧)や過電流のことです。
雷が直撃しなくとも、近くで発生した雷サージが電線などを伝って家庭内の電気系統に流れ込むと、パソコンや家電製品に過剰な電流が流れます。
その結果、電子機器の故障(絶縁破壊)や誤作動、データの消失、最悪の場合は火災などにつながる恐れもあります。電源の入っていない機器も故障する可能性がある点に注意が必要です。
3 雷サージが発生する原因
雷サージが発生する原因としては、直撃雷と誘導雷、逆流雷の3種類が挙げられます。
ここでは、それぞれの概要をご紹介します。
3-1 直撃雷
テレビアンテナや建物の避雷針、電柱、電線など、対象物に直接落ちる雷が「直撃雷」です。
直撃雷で発生した雷サージは、電線を伝って建物内の電気系統に流れ込みます。非常に高い電圧や電流が発生するため、対策をしていてもパソコンなどを守ることは困難です。
3-2 誘導雷
雷が樹木などに落ちると、落雷箇所の周囲にも高い電圧が発生します。
その電圧が誘導電流(磁界の変化により流れる電流)を引き起こし、付近の電線や電話線などを経由して建物内に入り込む現象が「誘導雷」です。
また、落雷していなくても雷雲や大気から雷サージが侵入するケースもあります。パソコンなどが雷サージの影響で故障する原因の多くは、誘導雷によるものです。
ただし、直撃雷より電圧は低いので、個人で備えることができます。
3-3 逆流雷
避雷針や樹木、建物などへの落雷によって付近の電位上昇が起こり、接地(アース)から建物に電流が逆流してくる現象が「逆流雷」です。
接地雷サージと呼ばれることもあります。
水が上から下に流れるのと同様に、電流も電位の高い所から低い所へと移動するものです。そのため、ある接地の電位が上昇すると、その設置線に接続している機器に電流が逆流する恐れがあります。これが、逆流雷の起こるメカニズムです。
4 雷サージとノイズの違い
パソコンなどの電子機器で注意したい現象としては、「ノイズ」も有名です。ノイズとは、電子機器を破壊するほどではないものの、動作に問題を与えたり、データ消失の原因になったりする可能性がある異常電圧のことを指します。
スピーカーから雑音が聞こえる、テレビの映像が乱れるといった現象が、ノイズによる障害の一例です。
5 雷サージ対策の重要性
日本では、平均して年に100万回もの雷が発生しています。さらに、地球温暖化の影響で近年は雷被害が増加傾向にあります。
実際に、雷の影響で電子機器が故障した経験をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。
そのような状況の中、家電のネットワーク化が進んだり、LSIやIC(集積回路)を使用した耐電圧の低い製品が増えたりしていることから、雷サージの影響を受ける可能性は高くなっています。
特に、パソコンは電源コードやLANケーブルなど、電気の出入り口になるケーブルが接続されていることが多いです。
パソコンをはじめとした電子機器の故障を防ぐためには、適切な雷サージ対策を施す必要があります。
6 雷サージへの対策方法
パソコンや家電などを雷サージから守るには、適切な雷サージ対策を行うことが必要です。
ここでは、ご家庭でも行える雷サージ対策をご紹介します。
6-1 基本的な雷対策を行う
最も基本的な雷サージを防ぐ方法は、家庭内で雷対策を行うことです。
遠くから雷の音が聞こえてきたらパソコンや家電などの電源を切り、電源ケーブルをコンセントから抜いておきましょう。
LANケーブルやテレビのアンテナケーブル、電話線、アース線など、外部と接続しているケーブル類も全て取り外します。 単に機器の電源を切るだけでは、雷サージの被害を防げないため注意が必要です。
ただし、感電する恐れがあるため、雷が近づいてきたら機器類の電源に触れるのは避けてください。
6-2 保護タップを活用する
雷は季節によっては高い頻度で発生するものです。その度に建物中の電源ケーブルやLANケーブル、アース線などを抜き差しするのは手間がかかります。
外出中は対処の仕様がない、機器によっては長時間電源を切っておくのが難しいなど、あまり現実的とはいえません。
ケーブルの抜き差しに代わる対策として、保護機能付き電源タップなどのSPD(サージ保護デバイス)を活用するのも有効です。
過剰な電圧や電流を保護タップ内の「バリスタ」と呼ばれる雷サージ吸収素子が食い止めるため、タップに接続したパソコンなどを雷サージから守ることができます。
ただし、一度雷サージの影響を受けたタップは保護機能を失ってしまいます。その都度交換しなければいけない点には注意が必要です。また、対応可能な電圧にも上限があり、直撃雷サージによる被害は防げない場合がほとんどです。
6-3 アースの等電位化を行う
電子機器の故障の原因となる絶縁破壊は、大きな電位差の発生によって引き起こされます。
雷サージが発生しても、各アース電位が同じであれば、絶縁破壊は生じません。アースを全て共通にして等電位化を行う(等電位ボンディング)ことで、雷サージの被害を予防できます。
6-4 無停電電源装置(UPS)を使用する
落雷の際に注意したいのは、雷サージだけはありません。
急な停電によってパソコンなどの電源が予期せず落ちてしまい、機器の故障やデータの消失を引き起こすケースも考えられます。
停電による被害を防ぐために、無停電電源装置(UPS)を活用するのもおすすめです。
無停電電源装置とは、内部のバッテリーに蓄えた電気を使って、停電が発生してもパソコンに一定時間電力を供給できる装置です。
停電による機器の故障や、データの消失といった事態を防ぐための有効な対策になります。
ただし、無停電電源装置は、あくまでも一時的に給電を行ってパソコンなどを正しく終了させるための装置です。
正常に動いているからと、そのまま機器の使用を続けるのは避けてください。
また、停電した時は家電製品の電源プラグを抜いておきましょう。停電から復旧する際に、過剰な電流が発生して機器が故障したり、ブレーカーが飛んだりする可能性があります。
6-5 パソコンのバックアップも重要
保護機能付き電源タップなどを活用すればある程度の落雷対策は行えますが、確実にデータの消失を防げるわけではありません。こまめにデータのバックアップを取ることも重要です。
データのバックアップを適切に行っていれば、落雷などの影響で機器が故障しても、データの復旧を早期に行えます。
7 被害を受ける前に雷対策を行おう
雷は一般的に、夏季に最も発生しやすいといわれていますが、日本海沿岸では冬季にかけて落雷の発生が増えます。
地域や天候などに左右されますが、雷は1年中起こり得るものということです。
落雷によって雷サージや停電が発生すると、パソコンの故障や内部データの消失などを招く恐れがあります。
被害を受ける前に、保護機能付き電源タップの導入やデータのバックアップといった対策をしておきましょう。
それでも、雷サージによる被害を確実に防げるわけではありません。万が一、雷サージによって機器の故障や障害が発生してしまった際は、専門業者に復旧を依頼することをおすすめします。